猿田彦神社では本殿で神前挙式を執り行うことができ、猿田彦様は新しく始まる新郎新婦ふたりの道を開くための加護を授ける。
 常日頃、縁結びや夫婦円満のご利益を求める参拝者が多いので、この時期になると仕事が増える猿田彦様は、毎年疲労で少しやつれてしまうのだ。

「今年も合間を縫って疲れを癒しにいらっしゃるのね」

 咀嚼したうどんを飲み込んで言うと、夕星さんは小さく肩をすくめた。

「ああ、旦那の疲労度がやばいのだと、天宇受売様から連絡を受けたよ」

 猿田彦様はもちろんだが、天宇受売様も全国各地で祭神として祀られているため、普段から忙しくしている方だ。
 きっと夫婦揃ってお疲れのことだろう。

「だが、暁天の間は予約で埋まっているからな……」

 どうしたものかと眉を寄せて思案するミヅハの横で、カンちゃんが腕を組みながら何かを思い出すように宙を見つめる。

「確か、泊まれない時は温泉だけ利用って時もあった気がするけどな」

 記憶違いだろうかと首を傾げるカンちゃん。
 言われてみれば確かに去年の秋ごろは、暁天の間に泊まれず、日帰り温泉だけ利用してくれていた。
 であれば、二日間たっぷりとおもてなしはできないけれど、少しでも疲れを癒してもらえるのではないか。
 そう思ったのだけれど、夕星さんは首を横に振った。

「今回はゆっくりしたいから、どうしても泊まりにしたいそうだ」

 なるほど。
 どうやら猿田彦様の疲れ具合は深刻なようだ。