噛むともっちりと柔らかい食感が魅力の伊勢うどん。
 麺に絡まるたまり醤油を使ったタレも、かつお節のだしが香り、まろやかな風味が口いっぱいに広がる。

「タレの印象からは想像できないあっさり味で、やみつきになりそう」

 伊勢うどんは一見するととてもシンプルだが、ていねいに作り込まれたのがよくわかる味だ。
 伊勢神宮内宮の参道である【おはらい町】や【おかげ横丁】にも伊勢うどんを味わえる店がいくつかある。
 店によって味わいが異なり、バリエーションが豊富な店もあるので、色々と食べ比べるのも楽しそうだ。

「オレはトッピングに生玉子をお願いしたんだけど、甘さが増してうまかったぜ。ちなみに若旦那はかつお節たっぷり乗せ」
「旨味がぐっと増した」
「あああっ、それどっちも絶対に美味しい。食べなくても味がわかっちゃう」

 カンちゃんの語った卵黄乗せ伊勢うどんと、ミヅハが食べたというかつお節乗せ伊勢うどんの絶品度は想像に容易く、なんならダブルでトッピングさせてもらえないかと、簾の向こうで褒められてあうあうと照れている様子の豊受比売様に声をかけようとした時だ。

「ああ、ここにいたね。若旦那」

 涼やかな声が聞こえて、箸を手にしたまま顔だけで振り返ると、そこには柔らかな笑みを携えたひとりのあやかしが立っていた。