「あ、あの……おうどん、できました。どうぞ召し上がってください」

 簾が少し持ち上がり、丸いお盆に乗ったまかない料理が豊受比売様の華奢な手でゆっくりと押し出された。

「わ、伊勢うどん! ありがとうございます」
「おうどんは手打ちしてみたんですけど、お口に合わなかったらごめんなさい……」
「そんなはずないですよ。豊受比売様の作るお料理はどれも絶品です」

 さすが神々の食事を司る豊受比売様の作る料理だと、どのお客様にも好評なのだ。
 ありがたいと拝むお客様もいるくらいで、私も常に感謝の気持ちを持っていただいている。

「そ、そんな……ありがとう、ございます」

 照れた声が聞こえると、居たたまれないとばかりに簾がシャッと下ろされた。
 可愛らしい方だなと頬を緩めた私は、さっそく箸を手にすると「いただきます!」と豊受比売様に聞こえるように言って、どんぶりを見下ろす。

 極太面が特徴の伊勢うどんは、江戸時代、集団で伊勢神宮を参拝する【おかげ参り】の食事として広まった。
 参拝者たちの疲れを気遣い、消化のいいものをというおもてなしの精神から生まれた、伊勢ならではの名物料理だ。

 ツヤのある白い極太のうどんに、とろりとした黒いタレ。
 添えられたきざみネギとともに、よくかき混ぜてから箸で掴んで口内へと運ぶ。

「んー! もちもち!」