色っぽく眉を下げて語ってくれた朝霧さんも、実は慕っていた男からひどいめにあわされ、恨みを抱えたまま死んでしまった元人間だ。
『あんなクソ男のせいでおっ死ぬなんて、死んでも死にきれなくてさぁ。で、運よくあやかしにトランスフォームできたもんだから、嬉々として恨みを晴らしに行ったの。そうしたらね? 殺すのもバカバカしいほどにクソ男っぷりが増してて、もうただ殺すだけじゃ足りないから、一生残るトラウマ級の脅かし方してさよならしてやったわ』
きっと死ぬ寸前まで怯えて魘され続けたでしょうねと笑った朝霧さんは、残酷なまでに美しく、けれどどこか寂しそうにも見えたのを覚えている。
話を聞いた当時、私がまだ小学校高学年だったこともあってか、その男性が朝霧さんにどんな仕打ちをしたのかは聞かされなかった。
けれど、その男性を恨むようになって以降、朝霧さんは男に嫌悪感を抱くようになり、この天のいわ屋に訪れる男性客が朝霧さんにセクハラを働こうものなら、気のある素振りを見せ、かどわかし、痛い目に合わせることもしばしばある。
これに関して母様は『うちは遊郭じゃないからね』と、朝霧さんを咎めたことはない。