「実は初恋、だったんだけどなぁ……」
それももう昔の話だが、私はミヅハの笑顔がとても好きだった。
お菓子をあげると綺麗な顔にそれはもう満面の笑みを浮かべるものだから、これもどうぞ、どんどん食べてと様々なお菓子を渡していた記憶がある。
「また、笑ってくれないかな……」
微笑んでくれることはたまにあるけれど、そうではなく。
昔のように、何でもないことで大きな口を開けて笑い合いたいのだ。
夫婦になるというなら、なおさらにそんな関係でありたい。
「って、いつのまにか思考が結婚受け入れモードになってるじゃない私!」
全く知らない相手ではなかっただけマシではあるが、もう一度母様と話をしてみたほうがいいのかもしれないと溜め息を吐いたところで、廊下の角から仲居の朝霧さんが現れた。
「あら、溜め息なんてついて、悩み事?」
すれ違えば誰もが振り返るであろう美しい顔を持つ彼女は、絡新婦というあやかしだ。
絡新婦は日本各地に様々な伝承を持っており、年老いた蜘蛛が人に化けている者もあれば、不幸に見舞われた女性があやかしに身を落としたなどと囁かれている。
朝霧さんから聞いた話では、ほとんどの絡新婦が、男絡みで色々と苦労してきているらしい。