「ただいま、母様……って、挨拶よりも体調よ!」
「干汰から倒れたと聞いた」
「母様、大丈夫なの?」
ミヅハが畳の上に座り、私もその隣に続くと母様は両腕を開いて「この通り、平気だよ」と大事ないことをアピールする。
「大角、何があった?」
思ったよりも元気に振る舞う母様から、静かに様子を見守る大角さんへと視線を移すミヅハ。
「はい。仲居の朝霧と俺の三人で宿内を清掃中、突然女将が倒れました」
「少彦名殿は呼んだか?」
「必要ないと女将が」
「もう、母様。ちゃんと診てもらわないと」
自分のことを棚に上げている自覚はある。
しかし、人である私が貧血で倒れるのと、神である母様が倒れるのはわけが違うのだ。
神々は人のように病気で倒れたりはしない。
怪我が悪化した場合と、穢れを受けて気が乱れた場合に倒れることがあるのだと、幼い時に母様から聞いている。
神、あやかしの中では当たり前の知識で、だからこそカンちゃんも『大変だ』と慌てふためいたのだ。
今日まで特に怪我をしていた様子はなかった。
ならば穢れを受けたのではないか、と。
母様は、心配する私たちの眼差しを受け、一笑する。
「そんな心配しなさんな。怪我も穢れもないよ。だが、原因がなんであるかは自分でわかってる。だから診てもらう必要はないんだよ」
きっぱりと言って、母様は大角さんに「わざわざ運んでもらって悪かったね。ありがとう」と感謝を口にした。