「姫さん、ほんっっっとにおめでとう。なんか、こうしてこの日を迎えたのが夢っ……夢みたいで、オレ……ぐすっ……オレぇ……」
一瞬「泣き上戸か」と突っ込みたくなったけれど、カンちゃんにしてみれば千年待ち望んだ景色なのだ。
千枷として見てきたカンちゃんと過ごした日々を思うと、こちらまで泣けてくる。
そしてそれは、大角さんにも言えることだ。
「あの時の言葉は、千枷ではなくいつきだったのだな」
「そう、ですね。そう思うと不思議です」
別れの時、予言めいた言葉を残した千枷。
もしかしたら私が過去に介入していなくても、千枷には視えていたのかもしれないけれど、こうして再会を果たせたことは素直に嬉しい。
「若旦那は龍芳と違って不器用だからさ、オレはちょっと心配だけど、泣かされたらいつでもオレの腕の中に、ぐおっ」
カンちゃんの顔にミヅハの水弾がヒットした。
「目は覚めたか、干汰」
「へい……若旦那……」
ふたりのやり取りに思わず吹き出してしまうと、豆ちゃんも笑って、大角さんもやれやれと微笑んだ。
そこへ、今度は朝霧さんと夕星さんがやってくる。
「ったく、騒がしいわねぇ。お茶淹れたから、席に戻って飲んでなさい」
朝霧さんに窘められたカンちゃんは、大角さんと豆ちゃんに連れられて戻る。
「いつきちゃん、体調はどう? 無理はしていない? 若旦那が相手で後悔してない?」
「おい」
思わず突っ込んだミヅハに、朝霧さんはあははと笑った。
「まあ、今はまだしないわよね。問題はこれからよ。万が一でもおクズ様になり果てたら、今度はあたしが若旦那に呪詛を飛ばしますからね」
男嫌いな朝霧さんらしい檄の飛ばし方に、私だけでなく夕星さんも苦笑する。
「まあまあ、若旦那なら大丈夫だよ。ずっといつきさんを見守ってきたのを知っているだろう?」
「夕星」
「おっと、すまないね若旦那。でも、事実だ。だからいつきさん、どうか幸せに。そしてこれからもよろしく」
美しい顔に微笑みを浮かべた夕星さん。
なぜかふと、千枷が祓った黒い妖狐を思い出したけれど、もしも夕星さんが彼の生まれ変わりであるならば嬉しく思う。
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
お辞儀をすると、ミヅハも合わせて頭を下げる。
何気ないその行動が、夫婦になったのだと思わせて、私がそっとミヅハに微笑みかけると、彼もまた幸せそうに笑みを浮かべて見せた。