「ミヅハさん、いっちゃんを幸せにしてあげてくださいね」
「ああ、必ず」
「そうだ。これ、良かったふたりで食べてね」
そう言って差し出されたのは、伊勢ではお祝い菓子として古くから親しまれている【くうや観助餅】だ。
見た瞬間、ミヅハの目の色が変わり、私より早く箱を受け取る。
「深く感謝する」
ミヅハが天のいわ屋のスイーツ王子であることを知っているさくちゃんは、可笑しそうにクスクスと笑って「お幸せに」と自分の席へと戻っていった。
入れ替わりにやってきたのは、ほどよく酔っぱらったカンちゃんと、そんなカンちゃんに絡まれても慣れた様子でかわす大角さん。
そして、大角さんに頭を撫でられながら私に手を振りながら歩く豆ちゃんだ。
「いつき様! とっても綺麗です!」
「豆ちゃんも、お着物とってもよく似合ってる」
人の姿でおめかししている豆ちゃんは、褒められてモジモジしている。
ああ、豆ちゃんは今日も可愛い。
そんな可愛い豆ちゃんだけれど、彼が勾玉の呪詛を祓う為に協力してくれたと聞いた時には驚いた。
というよりも、今日も宴が始まるとそそくさと引き籠ってしまった豊受比売様が頑張ってくれている皆の姿を録画していて、回復した私はそれをひとりで見させてもらい、泣いたのだ。
感謝の言葉だけでは言い表せないほどの深い思いが込み上げて、何度もありがとうと言い続けたのを覚えている。
あの夜、皆が命がけで呪詛を祓い、枷を外してくれた。
私はこれからその恩を、少しずつでも彼らに返していこうと決めている。
でも、この三人はそんなものはいらないと言った。
先に命を助けてもらったのは自分たちで、その恩を返しただけだと。