ズブリ、ズブリと体が何かを飲み込んでいく。
 熱い。
 お腹が、熱い。

「あ……」

 漏れ出た声は、すぐに口からごぼりと流れ出た血によってかき消されてしまった。
 崩れ落ちる私の身体を、主上が愛おしそうに支えて横たえる。
 視界の端に、ぼんやりと月が見えた。

「はっ……は……」

 朦朧とする意識の中、私は必死に腕を伸ばす。
 ミヅハの光が、見えるのだ。
 私を呼ぶ声が聞こえるのだ。
 なのに、掴めない。
 答えられない。

「来世で幸せになどさせぬ」

 主上が、私の胸の上に勾玉を置き、自らの手首を切ると勾玉に血をかける。

「もし出会うことがあろうとも、そこにわたしがいなくとも、この呪が必ずお前たちを引き裂いてくれよう」

 悲しみと嫉妬に染まる呪詛を吐き出す声が、千枷を死へと導く。
 私の意識を蝕み、共に引きずりながら。
 そっちへは行きたくない。
 私は、皆の、ミヅハの……ところ……へ……。



──『こっちですよ』



 真っ暗な世界に透明感のある優しい声が聞こえて、沈みかけていた意識が浮上する。
 気付けば私の手を、少しだけひんやりとした女性の手が引いていた。
 穏やかな川の流れに身を任せるようについていくと、ずっと求めていた神気が私に向かって伸びてくる。

『いつき』

 確かに、ミヅハの声で呼ばれた私は手をいっぱいに伸ばし、光の中から現れたミヅハの大きな手を掴んだ。

 光が弾けて、夢から目覚めるが如く視界いっぱいに現実が広がる。
 けれど。

「あ……っ……ぅ……!」

 過去から帰っても、私の身体はひどい苦痛に襲われていた。
 身の内に残る呪詛が、私の命を食らい尽くそうとしているのだ。