「だが、君の瞳にわたしは映らない。わたしと共にいても、龍芳を想う瞳でわたしを見ていた。邪魔な男よ。もういないのに、君はまだ龍芳を想うのか」

 勾玉からどろりとした瘴気が発せられ、うっすらと主上を覆う。
 慄いた私が一歩後ずさると、主上は腰にある刀をすらりと抜いた。

「……ミ、ヅハ」

 体が強張る。
 震える声で零し、必死にミヅハの気配を探る。
 早く、ミヅハの神気を探して辿らなければ。戻らなければ。
 じり、と距離を取り後ろに下がる私を、主上の虚ろな瞳が追う。
 刀の切っ先が、月の光を受けて鈍く光った。

「ダメです。そんなことをしたら堕ちてしまう。黄泉の国の奥深くに囚われて、転生さえかなわない」

 頭を振って説得を試みるも、声が届いていないのか返事はない。
 募っていく恐怖に、呼吸が乱れていく。

「ああっ、もう! 目を覚まして! 千枷にあなたを見て欲しいなら、こんなやり方では伝わらない!」

 最期の時が、こんなにも早く訪れるなんて。
 死は、いつだって待ってくれないのだ。
 父と母の死も、心の準備なんてできるはずもなく突然にやってきて、あっというまに命を奪った。
 龍芳と千枷の命も。
 だけど、死を嘆いてばかりではいられない。
 生きているのだ。
 私はまだ、生きている。

「ミヅハ!」

 叫んだ瞬間、遠くにミヅハの神気を感じた。
 この機を逃すまいと、瞼を閉じて意識を集中すると、あたたかな光が私を迎えるように広がって。

 ──腹部に激痛が走った。