「……少し、ひとりにしてください」
千枷の心を休めるためにも、集中しミヅハの元に帰る為にも。
お辞儀をし、引き取ってもらおうとしたのだけれど、主上の足はその場から動かない。
代わりに動いた彼の手が、私の着物の袷に挟んであった手紙を奪う。
「かっ、返してくださいっ」
手を伸ばすも、主上は軽やかにかわして読んでしまった。
「なるほど、来世か」
龍芳の手紙から視線を外した主上の顔には表情がない。
怒るわけでもなく、鼻で笑うでもなく、ただ、仄暗い双眸が私を見つめている。
不気味な雰囲気に私は緊張に喉を鳴らした。
「なあ、千枷殿。わたしが君の噂を耳にした時、清明に斎王にしたいと提案したんだ。しかしやつは反対した。千枷殿と運命を交わらせては、わたしは人の道から外れることになると」
安倍晴明は祈祷や祓いだけでなく、星詠みにも長けていると聞いている。
その清明が、未来を予言していたにも関わらず、なぜと眉根を寄せたところで、ようやく主上に表情が戻る。
しかしそれは狂気を孕んだ笑み。
「人の道から外れるとは、なんと面白いと思った。わたしを人の道から外させる君に会いたいと、強烈に思った」
ああ、彼が奇人であると言われるのはこういった考えを持っているからだ。
けれど、それが元からの性質でないことを千枷は知っている。
猜疑心だらけの大内裏にいては常に孤独で、この斎宮にいる間は安らいで見えた。
無理矢理に斎王にさせられても、苦悩を知れば千枷は主上を邪険にはできなかったのだ。
そんな優しい千枷に惹かれ、縋って……。
「道を外すもいい。人でなくともいい。あやかしとなっても、美しい君の目はわたしを映すことができるだろう?」
嫉妬に狂った。