泣き腫らした瞼が重い。
 龍芳を失ったばかりで、心はまだ深く沈んだままだ。
 ごめんね、もうひとりの私。
 今、あなたを助けることはできないけれど、私たちを縛る枷を取り払ってみせるから。
 真夜中を包む静寂の中、徐々に近づくぎしりぎしりと床を踏む音が止まる。

「……もしや、起きているのはでは思ったが、やはりか」

 月の光を受ける主上の姿は青白く、どこか生気のない人形のように見えた。
 主上は視線を庭へ向け、濡縁に膝をついたままの私へと戻すと口元だけで微笑む。

「君を起こしたのはあやかしかな? 彼の死を、知らせにきたのだろう?」

 口振りからして兼忠様が戻り、龍芳の死と大角さんのことが告げられたのだろう。

「どうして、龍芳を殺めたんですかっ」

 冷静に問いかけるつもりだったけれど、怒りと悲しみに声が震える。
 主上は相変わらず白い顔で私を見下ろしながら言った。

「斎王は神に仕えるため清くなくてはならない。恋慕を抱くことは禁じられている。罰を与えねば」
「罰なら私に与えればいいでしょう?」

 目頭が熱い。
 視界が滲む。
 主上の前で涙を零したくはないけれど、千枷の心が悲しみに叫んでいた。
 どうして龍芳をと、嘆き続けているのだ。

「それは逢瀬を、認めるということかな」

 薄く笑う主上の表情は、気味が悪くて寒気がする。
 元々の気質なのか、勾玉に良くないものをため込んでしまったせいか。
 どのみち今の私には彼をどうすることもできない。
 龍芳も、逢瀬を認めたところで、彼が黄泉の国から還ってくることはない。