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 あれは確かにミヅハの声だった。
 悲しみに暮れる千枷の想いに揺蕩う中、私は確かに彼の声を聞いたのだ。

 皆のこと、ミヅハの想い。
 終わらせようという言葉。
 そうだ、私は終わらせなければならないのだ。

「警護ご苦労。斎王に変わりはないか?」
「は、特に異常はありません」

 遠くから聞こえる主上の声に、私は急ぎ大角さんの鼻頭をそっと撫でる。

「大角、行って。あなたは兼忠様に姿を見られている。龍芳を庇ったなら、あなたたちまで追われてしまうかもしれない。しばらくはここへ来てはダメ。ほとぼりが冷めるまでは干汰とお宿に隠れていてね」

 声を潜めて告げる私に、大角さんの瞳が不安を纏って揺れた。

「千枷は、大丈夫なのか?」
「……大丈夫よ。また、会えるから」
「保証はないだろう」
「私が保証する。ただ、私は別の私になっているけれど、それでも必ず会えるから」

 漠然とした私の言葉に、大角さんは何か言いたそうに見つめるも、結局言葉は紡がずに頷いた。

「皆で、また過ごしましょうね」
「……干汰と、待っている」
「ええ」

 「またね」とも「さようなら」とも、互いに口にしなかった。
 「さようなら」も「また」も、どちらもやってくると知っているけれど、声にしたらここから逃げたいという気持ちに負けてしまいそうだから。
 これから起こるであろう凶行はひどく恐ろしいけれど、怯えてばかりではいられない。

『戻ってこい。枷を祓って、終わらせよう』

 ミヅハが待ってくれているのだ。