「急いでいつきを起こして引っ張り上げな」

 言われて良く見れば、いつきの呼吸が浅い。
 映像では、千枷が泣き腫らした瞳をぼんやりと夜空へと向けていた。
 千年前、側にいてやれなかった痛々しい姿を胸に焼きつけ、息を深く吸い込み集中する。

「……いつき」

 来世で添い遂げようと、身勝手にも約束を残した。
 生まれ変わってみれば、俺は神族で、いつきは人間で。
 記憶を持っているのは俺だけで、いつきはかつて刻まれた魂の記憶を綺麗に忘れたままだった。

「いつき」

 千枷の面影はあれど、いつきは千枷ではない。
 いつしかその事実は俺を落胆させたけれど、いつきが『ミヅハ』と新しい名を呼んでくれるのは心地が良かった。

「いつき、聞こえるか?」

 月を見上げていた千枷が、ゆっくりとこちらを振り向く。

「干汰と大角が、お前を助けるために呪詛を祓いに向かっている。全力で走ってる」

 ふたりはずっと、俺たちを救えなかったことを後悔して過ごしてきた。
 生まれ変わった俺に物心がつきふたりを見て再会を喜んだ時、彼らは笑顔ではなく泣きそうな顔ですまなかったと頭を下げたのを今でもよく覚えている。
 俺は、希望を残してきたつもりが、実際にふたりが抱えていたのは深い後悔だった。
 大角は口にはしなかったが、干汰はよく言っていた。
 今生こそ、幸せになってくれと。

 ……ふたりだけではない。

「朝霧と夕星も、奔走してくれている。豊受比売さんも部屋から出て頑張ってる。天照様も瀬織津姫もだ」