【 君の幸せをねがう。来世で、かならず添い遂げよう 】

 急いでしたためたのか、文字は乱れているけれど確かにそう読めた。
 来世でと、なぜ龍芳は今を諦めるのか。

『とりあえずは龍芳の元へ向かった兼忠が戻るのを待とう』
『龍芳には分不相応。わたしから奪おうなど死罪に値するだろう?』

 主上は、兼忠様に何をさせに行かせた?
 もしや、死ぬのは千枷だけではなかった?
 手紙を持つ手が震える中、恐る恐る尋ねる。

「龍芳は……どうしたの?」

 カンちゃんは、逢瀬がバレたかもしれないことを大角さんが伝えに行ったと言っていた。
 この手紙を預かったということは、大角さんは龍芳とは会えたのだろう。
 では、何があったのか。
 大角さんは、項垂れるとぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。

「ふたりのことがバレたかもしれないから、しばらくは村から離れた方がいいかもしれないと伝えた直後……兼忠が村に入ったと村のあやかしから報告があり、龍芳はその手紙をしたためた」

『大角、俺に万が一のことがあれば、これを千枷に渡してくれ』
『手紙か?』
『ああ。こんな約束で縛り付けるのは、卑怯かもしれないけどな』

 それでも、千枷が絶望しないように、少しでも希望を持って今生を生きてくれればいい。
 だからどうか、千枷を頼む。
 願わくば、生まれ変わったその時も皆でまた過ごせたらと告げ、大角さんに手紙を託した龍芳は……。

「川沿いの林に隠れながら逃げたが、途中で兼忠に追いつかれて……」

 庇おうとした大角さんを制し、千枷の元へ行けと叫んだらしい。
 血を吐く思いで走り出した大角さんが振り返ると、その双眸に映ったのは、五十鈴川の川縁で兼忠様の刀に倒れる龍芳の姿。

「すまない……助けてやれず……すまなかった……」

 大角さんが涙を零す中、千枷の意識が大きな波のように押し寄せる。
 私はその波に逆らわずに身を委ね、千枷に任せた。

「たつ、ふ……さっ……」

 震える唇が、愛しくてたまらない人の名を紡ぐと、堰を切ったように涙が溢れ頬を濡らす。
 胸が張り裂けそうなほどの絶望に嗚咽が止まらず、呼吸もままならない。
 ごめんなさい。ごめんなさい。
 胸の内で繰り返される後悔と謝罪。
 会いたいと希わなければ、龍芳は今も村で平穏に過ごせていたのかもしれないのに。
 ごめんなさい。
 あなたを死に追いやってしまってもなお、会いたくてたまらないなんて。

「ごめん、なさいっ……龍芳……」

 手紙を抱き締めながら崩れ落ち、何度も名を呼び続けるも……返るのは、夜の静寂だけだった。