一瞬、状況が呑み込めずにいたが、どうやら私はミヅハに横抱きにされているらしい。
俗にいうお姫様抱っこという体勢だ。
先ほど介抱されていた時のように、端整な顔がぐんと近くなった。
意識が回復したばかりの時はぼんやりとしていて気にしていなかった距離感に、今さらながら羞恥心が沸き上がる。
「ミ、ミヅハ? 大丈夫だよ。私、歩けるから」
「倒れたばかりだろう。無理はするな」
「でもほら、重いし」
「……そうだな。だがまあ問題ない」
「そこは嘘でも重くないって言うところだよ。乙女心がわかってないなぁ」
デリカシーのなさを咎めるべく目を細めると、ミヅハは驚いたように瞠目し、私を食い入るように見つめる。
なぜそんなにも驚嘆しているのか。
まさか「そうだったのか」と新しい知識に衝撃を受けているとか?
はたまた「俺に嘘をつかせる気か」と、私の神経を疑っている?
しかし、どうやらそのどちらでもなかったようだ。
ミヅハは瑠璃色の瞳を戸惑うように揺らめかせ、遠慮がちに薄く形のいい唇を動かす。
「ち、かせ……の?」
「……え?」
僅かに掠れたミヅハが紡いだ言葉が、何を示したものなのか私にはわからない。
わからないけれど……ただ、胸に灯るものがひとつ。
──懐かしい。
無性にそう感じていた。