島路山は内宮の南東に位置する山だ。
伊勢神宮近隣の森林と合わせて神宮林とも呼ばれており、稜線を共有する神路山には豆吉が住んでいる。
ふたりの話を聞きながら、豊受比売さんは別のタブレットを操作し始めた。
『島路山……広すぎるわね』
『あの、緊急事態って、いっちゃんに何があったんですか?』
『話すと長くなるの。落ち着いたら必ず報告に来るから、舞女の桜乃さん。どうかいつきちゃんの無事を祈ってあげてね』
『は、はい……!』
朝霧は礼を述べると身を翻して道を戻り、宙を舞うぽってりとした神鶏を見上げる。
『豊受比売様、聞こえます?』
「こ、こちら豊受比売です。拝見してました」
『それなら話は早いわね。勾玉は島路山らしいけれど、それらしい話、聞いたことあります?』
「いえ……物が物ですし、ひっそりと祀ったんじゃないでしょうか。今調べていますが、司天寮が作った司天マップにも特に載っていないようですね……」
アプリだとか司天マップだとかよくわからないが、とりあえず豊受比売さんが司天寮の人間たちとそこそこ繋がりがありそうなのはわかったところで思いついた。
「……豆吉だ」
「え?」
「豊受比売さん、干汰たちに連絡して豆吉に会うように伝えてくれ。島路山は神路山に住む豆吉の散策コースだ」
もしかしたら、それらしき場所を知っているかもしれない。
「わ、わかりました!」
豊受比売さんが干汰たちに連絡を取り始め、俺はまだ眠ったまま千枷を確認してからいつきを見下ろす。
「いつき」
手を、いつきの頭に近づけると触れないように注意しながら瞼を閉じ、集中した。
過去にいるいつきの意識を引っ張り上げるため、細く伸びる気をゆっくりと辿っていくと、天照様が言っていた通り突然視えなくなる。
呪が邪魔をしているのだ。
俺の神気を通さないとばかりに黒いモヤが集まってくるような気配を感じ、進むのを止めた。
無理に突破すればいつきの命を危険に晒すかもしれない。
仕方なく、一度引いて先に会話を試みる。
「いつき」
八咫鏡を介して神気を過去に飛ばすと、俺の気配を感じ取るのが上達したのか千枷の唇が「……ミヅ、ハ」と名を紡いだ。