冷静に考えようとすればするほど焦りに負け、うまくまとまらず、拳を強く握った時だ。
「呪具はオレと大角が見つけて祓いますよ」
「干汰、大角……いつからそこに」
「言っとくけど、ここにきた時にはすでに扉は開いてましたからね」
多分、慌てて俺が部屋に飛び込んだ時に閉めていなかったのだろう。
加えて、呪具のくだりを理解しているということは、そこそこ最初の頃から様子を伺っていたはずだ。
興味本位で立ち聞いていたわけではなく、いつきを心配し、千年前の当事者として放ってはおけなかった、というところか。
大角が「若旦那」と俺の前に跪く。
「どうか、俺たちに任せてください」
「姫さんの友人のところには、今朝霧が向かいました。この時間に訪問するなら女の方がいいだろうってことで。あ、家の場所は豊受比売さんがネットを使って調べてくれましたよ。でもって、夕星は猿田彦さん夫婦を呼びに行きました」
どうやら皆、聞き耳を立てていたらしい。
八咫鏡と呪詛というふたつの大きな力が働けば、確かにやってきて中の様子に気付くのも仕方ないのだが。
瀬織津姫が満足そうに頷く。
「皆いい判断といい動きだ。呪具の方を祓えたとしても、いつきの中に巣食う呪詛を祓う時、いつきはギリギリの状態になる。そこで婚姻の儀を行い、いつきの命を繋ぐって算段だね」
「さっすが天のいわ屋を立派に成長させた敏腕女将。ちなみに、今さっき、司天寮の式神からこいつをもらいましてね」
干汰が指に挟んでピッと見せたのは、陰陽師たちが使う霊符だ。
「姫さんに使うには危険だが、勾玉が相手なら遠慮なく使える」
ニッと笑った干汰は八咫鏡が映す千枷の姿を見つめ、ほんの一瞬、悲しそうに目を細める。
しかし、すぐにいつきへと視線を移し「頑張れ、姫さん」と呟いた。