「……おとなしく? するわけないじゃない」
見つけられたのだ。
あとは意識を現代にいる私へと戻し、保管されている場所に行って祓うのみ。
……なのだが、そこではたと気付いた。
「戻り方がさっぱりだった」
「斎王様?」
独り言ちた声に、見張りを任された女官が首を傾げる。
私は愛想笑いで対応しつつも、自分の体に戻る方法を思案する。
鏡で見ているだろうミヅハや母様たちと相談できればいいのだが、意識が私に代わってからしばらくミヅハの声は聞こえていない。
呼びかけたら聞こえるだろうか。
試しに「ミヅハ? 聞こえる?」と尋ねてみるも、返事はない。
帰って来たのは、女官の怪訝そうな視線だけだ。
「えっと……今から神の声を聞きます」
「神殿ではなく、ここでですか?」
「出るなということですし、仕方ないのでここで。もしかしたら、おかしな会話が聞こえるかもしれませけど、神が相手なので気にしないでくださいね」
「は、はあ……」
女官の顔は完全に変人を見るようなものだが、気にしている暇はない。
今の私は意識はいつきだけど、体は千枷だ。
斎王として過ごし、日々祈りを捧げている今の千枷の力を借りられれば、ミヅハとの会話もできるかもしれない。
御座に座ると瞼を下ろし、深呼吸をする。
お願い、千枷。
もうひとりの私。
少しだけ力を貸して。
集中し、ミヅハの気配を探す。
庭園の木の葉を揺らす風の音。
空を飛ぶ鳥のさえずり。
離れたところから女官たちの話声が聞こえる中、微かに、その声を捉えた。
それは耳ではなく、頭の中に直接届く。
『いつき』と私を呼ぶミヅハの声を感じ取り、心が躍った直後。
『早く戻ってこい!』
「わっ、ビックリした!」
張り上げられた声に私の肩が大きく跳ねた。