「それで、私への疑いは晴れたのでしょうか?」
「口ではなんとでも言えるものだ。だが、証拠もない。とりあえずは龍芳の元へ向かった兼忠が戻るのを待とう」
龍芳のところに兼忠様が……。
大角が龍芳の元へ知らせに行ったとカンちゃんが言っていたし、きっとうまく誤魔化してくれるだろう。
あるいは薬を届けに留守にしているかもしれない。
きっと大丈夫だと、そう思うのに……なぜか胸がざわつき、嫌な予感がするのだ。
これは私が感じているものなのか、千枷が感じているものなのか。
「それで、君は何を尋ねようとしていたのかな」
「寮庫を見たくて」
「寮庫? なぜだい?」
「それは……以前、貴重なものが色々あると聞いていたので」
「今まで良い贈り物をしても興味がなさそうだった君が?」
しまったと、咄嗟に口を噤む。
確かに千枷には物欲があまりなかった。
それよりも、龍芳との短くも幸せな時間や、心配して通ってくれているカンちゃんと大角さんと一緒にいる心安らぐ時間を大切に思い欲していた。
ここで疑われては捜索のチャンスが失われてしまう。
私は、慌てつつも思い付いた理由をできるだけ冷静に話す。
「古いものには付喪神が宿ります。なので、寮庫にもいるのではと……」
我ながら自然でいい理由だと思った。
千枷っぽくもあるだろうと。
しかし、主上の目は依然として笑ってはいない。
「なるほど。付喪神か。いたら友達が増えていいね」
「そ、そうなんです」
「でも、よく覚えておいてくれ。君がここにいるのは、斎王として勤め、わたしの為に神の声を聞き、わたしの為に生きていく為だ」
ゾッとするような笑みと、心の浸食を計るようにゆっくりと吐き出された言葉。