表情は笑みを携えてはいるが、どこか底冷えするような声色に、私は身を固くしてしまう。
「お、主上……」
「ここでは縁だよ」
「も、申し訳ありません」
千枷の意識を通して見るばかりだった主上と話すだけでなく、警戒すべき相手だと気を引き締めたばかりだったためにうまく喋れない。
それに、さっきの悪寒がまだ尾を引いているかのごとく、鳥肌が止まらないのだ。
「それで、君は今どこに行こうとしたのかな?」
「尋ねたいことがあって、誰かを呼ぼうかと」
「尋ねたいこと、か。それなら、わたしにもあるんだが、いいかい?」
十中八九、逢瀬の件だろうと予想しつつ「はい」と答える。
態度はできる限り何も知らぬ顔で。
「斎王によく似た女性が、夜分、斎宮の外で男と会っているのを見かけたと、ここで働く者が話しているらしい」
ああ、カンちゃんの言った通りだった。
主上は逢瀬の真実を確かめるため、京の都から伊勢国まで馬を走らせたのだ。
微笑んではいるけれど、笑っていない双眸で私をじっと見つめる。
「もしや君は、隠れて龍芳と会っていたのか?」
「いいえ、私は会っていません」
そう。私は会っていない。
会っていたのは千枷だ。
堂々と答えると、主上は不思議そうに私を見つめた後「そうか」と頷いた。
そしてそのまま私を観察する。
「な、何か?」
「いや……何だか、雰囲気が変わったような気がしてね」
「雰囲気、ですか?」
「ああ。強くなった、というか」
それは、私が千枷よりも粗野に見えるということか。
失礼だと抗議したいところだが、それこそ千枷らしくないのでそっと深呼吸して気持ちを静める。