気分の落ち込みがひどい。
 意識が私ではなかったら、今、千枷は涙を流していたのだろう。
 本当は千枷の心を休ませてあげたいけれど、私にはやるべきことがあるのだ。

 十二単へと着替えを済ませ、日課である祈りを捧げたあと、濡縁に立って広い庭園を眺める。
 呪詛の力を助けている物を探すにも、斎宮から出られないのが難点だ。
 そもそも千枷は誰に、どこで殺されたの?
 ミヅハは男だと話していた。
 千枷に執着する男といえば……。

「主上……?」

 彼は千枷を斎王にすることに拘った。
 そして、二カ月に一度ほど、千枷の様子を見に土産を持ってお忍びで訪れている。
 お忍びと言っても斎宮の人たちは主上であることは承知しており、堂々と千枷の部屋に入っては寛いでいた。

『内裏という場所は権力を手に入れんという欲で溢れかえり、吐き気がするほど窮屈でつまらない。だから、ここで君と会うのは、わたしの楽しみなんだ』

 また、あやかしたちとの愉快な話を聞かせてくれと笑う主上がいい人であると信じたいけれど、今ここに向かっているのも、龍芳とのことを聞き、問質すために違いない。
 カンちゃんの忠告通り、気をつけなければ。

「とりあえず、今は手かがりを探すのが優先ね」

 まずは宝物を貯蔵している斎宮寮庫を見せてもらえないか聞いてみようと、隣の部屋で待機している女官に声をかけようとした時だ。
 悪寒が走った直後。

「何処へいくのかな?」

 曲がり角からぬっと主上が現れた。