──き……いつき。
ミヅハの声が聞こえて、私は目を覚ます。
寝ぼけ眼にぼんやりと映るのは、こじんまりとした格子の天井。
「……ここ、どこ?」
もしや、私の意識が現代の自分に戻ったのかと体を起こしたのだが、視界に飛び込んできたのは白い几帳。
ここは、千枷がいつも寝ている御帳台の中だ。
枕元で焚かれている香の優しい香りがリアルで、これが夢ではないのだと告げていた。
側にある柱の鏡を覗くと、千枷の顔が映る。
「もしかして、千枷の身体に私の意識が覚醒した?」
そんなことがあり得るのだろうか。
いや、あり得ているのだ。
魂が同じで、かつ八咫鏡やら呪詛やらが絡んでの奇跡……という感じなのか。
とにかく、外の様子を見ようと自分に掛けられた衣をどかし、御帳台から顔を出した。
長く艶やかな髪がはらりと肩から落ちる。
普段、斎王についている命婦と呼ばれる秘書のような女官の姿は見えない。
少し乱れている白小袖の胸元を直し、何か羽織をと探していると、濡縁から「姫さん、大変だ」と潜めた声で呼ばれた。
「おはよう、カンちゃん」
よく知ったあやかしの登場に私は安堵しながら彼の元へと歩み寄る。
「カンちゃん? 寝ぼけてるのか?」
……いけない。
つい呼んでしまったが、私は今、千枷だ。
私は生まれ変わりの者ですと説明すれば、あやかしであるカンちゃんなら理解してくれる可能性はあるけれど、勝手な真似はやめた方が賢明だろう。
例えば、過去を変えることによって呪詛から逃れられる未来もあるかもしれない。
でも、それによって未来がどう変わるかはわからないのだ。