上体を起こして胡坐をかいた龍芳の指が、私の頬を撫でる。
「実は、千枷に何か贈り物をしたいと考えてるんだ。欲しいものはあるか? 探してくる」
「……探す?」
探すという言葉に、妙な引っ掛かりを覚え、私は首を傾げた。
大切な何かを忘れているような気がするのだ。
「千枷?」
「あ……ごめんなさい。何か、しなければならなかった気がして」
せっかく龍芳とふたりで過ごせる貴重な時だというのに、そればかりが頭を占めてしまう。
探す……探し物が、あった?
「平気か? やはりまだ斎宮での暮らしは辛いか?」
「大丈夫。干汰や大角も気にかけてくれるし、ほんの少しでもこうして龍芳と会える。この幸せな時間があるなら、それだけで満足よ」
「姫さん、そろそろ戻る時刻だ」
迎えにきた干汰に声をかけられ、私は思わず「あ……」と寂し気に零してしまう。
幸せな時間が、また終わってしまうのだ。
「次に会う時まで、何が欲しいか考えていてくれ」
「ええ……。ありがとう、龍芳」
龍芳の唇が、私の額に寄せられる。
私たちの逢瀬の時間が終わりを告げる合図だ。
抱き締めあい、再会を約束して、名残惜しくも何度も振り返りながら、私は斎宮へと戻った。
そして、最近人の姿をとれるようになった干汰と大角に心から礼を告げて、褥に横になる。
ああ、もう会いたくてたまらない。
次の逢瀬に焦がれ、しかし頭の片隅にこびりついて離れない”探し物”の存在を意識しながら、眠りにつく直前。
『……いつき』
また、呼ばれた気がしつつも、私は日々溜まっていた疲れからか、深い眠りに落ちていった。