「千枷!」

 駆け付けた龍芳が肩を支えて私の顔を覗き込む。

「大丈夫か?」

 傷を確認し、心配そうに眉根を寄せると、腰から下げた布袋から慌てて傷薬を取り出した。
 縁様が私の傍らに片膝をつく。

「千枷殿は本当にすごいな。ひとりであの妖邪を祓ってしまった」
「妖邪などと呼ばないであげてください。彼は、最後まで人を想ってくれていました。だから、素直に祓われてくれたんです」

 何より、札の力がなければ祓えなかった。
 龍芳の手当を受けながら伝えると、縁様は「ふうん?」とあまり納得のいっていない様子を見せた。
 仕方ないとは思う。
 人からすれば、普段は視えない存在だ。
 心のどこかでいるだろうと信じてはいても、実際に目にすれば大抵の人間は驚き恐怖に囚われてしまう。
 馴染みがないものの存在について語っても、なかなか理解はし難いのだろう。

「彼らは確かに人よりも強く不思議な力を持ってはいますが、神様やあやかしたちも悩みながら生きています。どんなに人間に尽くしても、今回のように尽くしてきた人間にその命を脅かされることだってある」

 神もあやかしも人と変わらない。
 命があり、生きている。
 誰かを思いやり、愛する心もある。
 辛いことがあれば苦しんで涙を流し、後悔し、乗り越えてまた笑っているのだ。

「人同士でさえ争うのはわかっているし、きれいごとだとは思いますが……私はいつか、どの種族も堂々と手を取り合って生きていける世になればいいなと、そう願っています」

 そうすればきっと、今回のような悲劇は起こらなかっただろう。
 存在が視える視えないで迫害されることもなく、捨てられることもないのだ。

「千枷殿がその架け橋となると?」
「私はそんな大それたことはできません。ただ、今回のように少しだけお手伝いできる程度ですから」

 それでも、これが第一歩となれればいいとは思っている。
 繋がり行く未来の先で、私よりも長く生き続ける干汰や大角たちが、不必要に脅かされず笑って過ごせていればいいと。
 そこには妖狐の生まれ変わりもいて、ミツ様も親友の神様と穏やかに暮らせていてる世になれば。