「千枷、顔色が良くない」

 龍芳が私の顔を覗き込み、背中に温かな手を添えた。
 不思議なことに、昔から龍芳が触れるとどんなに具合が悪くてもそれが僅かに軽くなる。
 彼は人間だけれど、祓ったり癒したりする力があるのかもしれない。

「ありがとう、龍芳。穢れは、この中にあるみたい」
「では、さっそく札で祓うか?」

 縁様に問われ、しかし私は首を横に振った。

「いえ、少しだけ時間をください。穢れの正体を視てみます」

 少しだけ離れていてくださいというと、三人はミツ様の時と同様、距離を取り見守る。

「龍芳、彼女は正体を視てどうするんだい?」

 結局は祓うのだろうと首を傾げる縁様に、龍芳は「神やあやかしに関わるならなるべく助けたいんだと思います」と話してくれた。
 そんなふたりの会話を耳にしながら、観音開きの扉を開けて中を覗く。

 湿気なのか穢れのせいなのか、じっとりと湿った内部には台座があり、その上に勾玉が置かれている。
 間違いなく、この勾玉から溢れる穢れが五十鈴川を濁らせミツ様を苦しめている原因だ。

 私は陰陽師様のように正式な祓い方は知らない。
 けれど、以前、傷ついて邪気を放っていたあやかしを助けてあげられたことはある。
 あの時、私がしたことといえば。

「……声は、聞こえますか?」

 語り掛け、相手の話に耳を傾け、出来うる限りで手を尽くすということ。
 同じようにしてうまくいくかはわからないけれど、乱暴に祓ったりはしたくない。