半刻ほど歩いた頃だろうか。
 美しく透き通っていた水の姿は消え、茶色に変化した川に遭遇した。
 兼忠様は先に確認していたので驚くことはなかったが、縁様は「これはひどい」と零す。
 川縁にしゃがみ込んだ龍芳が眉根を寄せた。

「本当にこの辺りだけ濁ってるんだな」

 十尺以上は間違いなくあるだろうが、被害がこの範囲だけで済んでいるのはミツ様が頑張って清めているからだ。
 そして、濁りの原因となる穢れだけれど、私は先ほどから周囲に漂う重苦しい空気に息苦しさを感じている。
 穢れによるものなのはわかっているが、一体どこから……と、辺りを見回した。
 すると、竹林の中から禍々しい気が垂れ流されているのを発見。

「縁様、兼忠様。お札をお借りしてもいいですか?」
「もちろんさ。兼忠」

 縁様が指示すると、兼忠様は霊符の入った包み布ごと渡してくれる。

「千枷、見つけたのか?」
「多分、この奥だわ」

 龍芳に教えると、縁様がならば行こうと戸惑いもなく竹林へ突入した。
 慌てて兼忠様が縁様の前に立ち先頭を代わる。
 鬱蒼と生い茂る草木の匂いに包まれ、陽の当たらぬ薄暗く細い獣道。
 進み続けるほどに息苦しさは増し、時々深呼吸しながら進み続けてどれほどの時が経ったか。
 ぽっかりと開けた空間に辿り着き、私たちは一度足を止める。
 竹林がぐるりと囲む中央には、岩に守られるように設置された切妻屋根の小さな祠がひとつ。
 禍々しいものが放出されているのは、この木製の祠からだった。

「なんだか……気味が悪いところだな」

 縁様も察知したのか呟くと、兼忠様が辺りを警戒するように見渡す。