「あの頃は何もできずに泣くばかりでしたが、今は人や神様、あやかしたちの間に立ってできることを頑張っています。じじ様の孫である龍芳も一緒ですし、武士の方もいます。だからミツ様、あと少しだけ耐えていてください」
原因がわかればきっと対処もできるはず。
必ずミツ様を助けてみせると胸に誓いお願いすると、ミツ様はゆっくりと頷いた。
「……わかりました。けれど、何かあれば私のことよりも自分の命を優先するのですよ」
「ごめんなさい、ミツ様。私は、どの命も優先したいんです」
「ふふ……ええ、そうですね。ありがとう、千枷。頼みましたよ」
「はい! では、いってきますね」
ミツ様に一礼し、少し離れた場所から様子を伺っていた縁様、兼忠様、龍芳の元に戻るとミツ様から聞いた状況を説明する。
濁りが穢れによるものだと知った縁様は、神妙な面持ちで五十鈴川を眺めた。
「穢れ、か。ならば、清明から預かって来た札が役に立つだろうか? 使用する際は『急急如律令、呪符退魔』と唱えるらしい。兼忠」
「は」
縁様に促され、兼忠様は懐から包み布を取り出すと、開いて数枚のお札を見せる。
所謂霊符と言われるもので、白い和紙に文字が連なり、触れなくてもそこにかなり強い力が宿っているのを感じた。
「清明様という方は、とても力ある陰陽師様なんですね」
「わかるのかい?」
「ええ。本当に強いので」
この札ならば、有事の際にもなんとかなるだろうと思い、とりあえず私たちは濁りのある場所へと下っていく。