「穢れ……ですか?」
「ええ……」

 翌日、懐かしい祠に到着した私の前に現れたのは、具合が悪そうに弱々しい笑みを浮かべたミツ様だった。
 聞けば、ここよりもう少しだけ内宮の方へと下って行ったところで穢れを受けているのだとか。
 濁っているのはその辺りだとミツ様は教えてくれる。

「ここで穢れを清め続け、どうにか内宮には影響を及ぼさずにいますが、正直、このままでは私の身は危ういでしょう」
「そんな……」

 五十鈴川の水神の命を脅かすほどの穢れ。
 その正体は一体何なのか。

「内宮にて、私の親友である瀬織津も念を入れて穢れを祓ってくれてはいますが、私の命が尽きれば流れた穢れに今度は瀬織津が参ってしまう。原因を祓いに行く余力もなく……」

 辛そうに息を吐き出したミツ様。
 きっと今この時も力を使って穢れを浄化し続けているのだろう。
 早く楽にしてあげなくてはと、私は自らの胸元に手を当てた。

「ならば、私が様子を見に行ってきます」
「あなたが? それは危険です」

 おやめなさいと止められるも、私はゆったりと頭を振る。

「ミツ様、私は幼い頃、あなたに助けていただきました。だから、今度は私の番です。どうぞ恩返しをさせてください」
「幼い、頃?」

 そっと首を捻ったミツ様は、私の顔を暫し眺めた後、力のない瞳を見開いた。

「ああ、もしやあなたは清水の龍之助の元へ行った幼子、名は……千枷?」
「はい、千枷です」
「そう……そうですか……。人の子の成長は本当に早いですね……」

 覇気は見られないものの、感慨深そうに微笑んだミツ様に私は笑みを返す。