そうして半刻経ち、少々慌ただしくも予定通り出立した私は、乗りなれない馬の背の上で、龍芳と共に揺られていた。
 馬の手綱は多少心得があるという龍芳が握っている。
 正直、龍芳が一緒に来てくれたのは心強い……というよりも、嬉しい気持ちが勝った。
 それは単に幼馴染だからという理由ではなく、私が彼を恋い慕っているからだ。
 畑仕事により少し日に焼けた健康的な肌、老若男女問わず村の人々に好かれている優しい人柄。
 何より、私の視える世界を受け入れ優しく接してくれる龍芳に、虜にならないわけがない。

「千枷、疲れてはいないか?」
「ええ、大丈夫」

 視線は前方を行く縁様たちに向けたまま龍芳に答えると、彼は「そうか」と返してから「干汰と大角は行きたがっただろ?」と会話を続ける。
 河童のあやかしの干汰と、大猫のあやかしである大角。
 ふたりは私に助けられた恩を返すのだと、私の家に居座り生活をしている。
 もちろん人の目に視えないように普段は姿を隠しているが、私が信頼を置く龍芳にだけは堂々と姿を見せて親交を深めているのだ。

「馬で行くと話したら、さすがに馬には追い付けないって留守を頼まれてくれたわ」

 ふたりとも心配していたけれど、五十鈴川の中流まではそう遠くない。
 五十鈴川の水神様に会って、原因を尋ねるだけであればすぐに帰れるだろう。

 ──そう、思っていたのだけれど。