「いつき!」
強い呼び声と共に、世界が一気に光で溢れる。
夢の中から目覚めるように、私の意識は現実へと浮上した。
「……ミヅ、ハ……?」
心配そうに眉を寄せ、私を見下ろし様子を伺うミヅハの姿に、彼の名をぼんやりと紡ぐ。
どうやら私は、床に膝をついた彼の腕に抱きかかえられているようだ。
だらりと伸びた右手を動かすと、その感覚が自分のものであることを確認する。
大丈夫、これは私、野々宮いつきだと。
「いつき様、大丈夫ですか……?」
顔のすぐ横から覗き込む豆ちゃんに、私は小さく頷いてみせる。
「うん……大丈夫。ごめんね、心配かけて」
体に痛みはなく、息苦しさも感じられない。
だるさは少しあるけれど、貧血だとしたらよくある症状だろう。
「体調が悪かったのか?」
「ううん……特には。急に意識が遠のいて……多分、貧血かな」
答えながらも、しかし自分に今まで貧血を疑う症状が出ていただろうかと思案する。
それだけではない。
意識が沈んでいたと思われる間に見たのは夢の類だったのか。
こちらに向かって手を差し伸べていた男性は誰だったのか。
差し伸べられた手の先にいたのは、私だったのか、別の人物だったのか。
全てが曖昧で、けれど、ただの夢や幻だと片づけることのできない奇妙さが胸に残っている。
「少彦名殿を呼ぶか?」
ミヅハが医薬の神の名を口にしたけれど、私は小さく首を横に振った。