その反応に、俺だけではなく瀬織津姫と天照様も目を見張り、八咫鏡が見せる映像に注目する。
『声? 誰の? あやかしか?』
『いつき……って、誰かの声が』
千年前の彼女がいつきの名を口にし、俺たちはさらに驚愕した。
「……俺の声が、届いているのか?」
意識のないいつきを見つめながら呟く間も、彼女らの会話は続いていく。
『いつき? 姫さんの名じゃないじゃないか』
『そう……そうよね。なぜ私だと思ったのかしら』
『それより、客も待ってるし急ごう』
促され、彼女が頷いたと同時。
『ええ』
「ええ」
いつきが、彼女と全く同じタイミングで返事をした。
一瞬、意識が戻ったのかと思えたが、いつきの瞼は閉じられたままだ。
瀬織津姫が、目を閉じるといつきの額に手を当てる。
「……魂はここにある。意識だけが過去に引っ張られたんだろう」
「呪詛のせいか」
「多分ね」
今は何も感じないが、先ほどのは確かにあの夜に感じたものと同じ邪気だ。
八咫鏡の力で繋がった過去に呪詛が反応し……呪詛に潜むあいつの邪念が、いつきを過去に閉じ込めたのかもしれない。
そう思うと、千年経っても相変わらず勝手なやつだと、怒りではらわたが煮えくり返りそうだった。
「なぜ、俺の声が彼女に聞こえたんだ?」
湧き上がる怒りを抑えつつ、どちらともなしに尋ねると、天照様が膝を折っていつきを覗き込む。
「どれ、アタシも。いつきちゃーん、聞こえるー?」
いつきに向かって天照様が呼びかけるが、どちらの彼女にも反応はない。
続いて瀬織津姫も試してみたが、やはり声は届いていないようだった。
ならばもう一度と俺が名を呼ぶ。
だが、今度は何の反応も示さず、俺たちは一様に首を捻った。