「何もいい情報を持ち帰れなくて悪いね」
「ううん……母様、天照様もありがとうございます」

 負担なく祓う手立ては高天原にはなく、司天寮にもないとなると、あとは……。

「母様、天照様、実は聞きたいことがあって。私の前世の記憶を復活させることってできませんか?」
「記憶を? またどうしてだい?」

 母様に問われ、私は昨日の休憩時に皆と話した内容を告げた。

「もし呪具を使っていたなら、前世の記憶から手がかりを得られないかと思って。もしくは対処法とかがわかる、とか。そんな便利なことができる薬とかアイテムなんて、さすがにない……ですかね?」
「うーん、ないわねぇ」

 ああ……やっぱり。
 青いネコ型ロボットの世界じゃないのだから、そんな優れた道具が──。

「記憶は無理だけど、過去を覗くことならできるわよ」
「そうですね、できるはずがな……えっ!? できる!?」

 優れた道具があった!
 しかも覗ける方が!

「千年前を覗き見れるということですか!?」
「そうよぉ。八咫鏡(やたのかがみ)ならできるわ」
「八咫鏡!」

 八咫鏡は、三種の神器のひとつで、内宮に祭られている天照様の御神体だ。
 実物は誰の目にも映ることは許されておらず、天皇陛下でさえ八咫鏡を納めた御桶代しか見たことがないとのこと。

「それならぜひ過去を見てみたいんですけど、え、さすがに内宮に奉斎されてて、天皇陛下でも見たこともない重要なものを使うのは難しいですよね」
「まあ、人からしたらそうみたいね。でもあれは私の一部みたいなものだから使うのは難しくないわよぉ? てことで、ほれっ、召喚~!」

 天照様の手のひらに太陽の如く眩ゆい光が集まったかと思うと、よくある丸い壁かけ時計に似た黒いシルエットがひとつ浮かび上がる。
 それは光がおさまると同時、銅で作られた神鏡がはっきりと姿を現した。