『神サンの力でも祓えなかった呪詛、か』

 機械越しに、阿藤さんが小さく唸ったのが聞こえる。

「司天寮に何かいいお祓いアイテムとかないですか?」
『祓いの札はいくつかあるが、そんだけ強力なもんだと、神サンたちも懸念してるように、ヘタに刺激をするだけで嬢ちゃんを危険に晒す可能性が高いな』
「そう、ですか……」
『悪いな。うちは祓うっつっても封印と滅することに特化してる機関なんだ』

 そう言ってから、阿藤さんは二十年ほど前にしつこい呪詛を祓った事例について話してくれた。

 呪詛を受けたのは二十代の男性。
 心霊ツアーに参加し、とあるあやかしの塚に悪戯をしたことが原因で呪詛を受けたらしい。
 司天寮が対処した時はすでにかなり衰弱していたらしく、五人がかりで呪詛を男性の体から引き離すことに成功したものの、体にかかった負担は大きく……数時間後、亡くなってしまったと。
 私の中に巣食う呪詛がそれよりも強い力を持って根を張っているのなら、数時間ともたないかもしれない。
 そう言われ、押し黙った私に阿藤さんは『脅かすようで悪いな』と謝った。

「いえ……肝に銘じます」
『ただ、嬢ちゃんの話を聞いて、ちょぃと気になることがある』
「気になることですか?」

 ライターの火を付ける音が微かに聞こえると、タバコを吸ってひと息ついた阿藤さんが『ああ』と答える。

『魂に根っこ張ってる呪詛だとしても、千年も経ちゃあ神サンなら祓えそうなもんだ。だが、瀬織津姫サンでも祓えなかった。そうだな?』
「はい」
『で、ここからは俺の予想だ。千年経って弱まっていた呪詛の力は、一度復活したんだよ』
「いつですか?」
『嬢ちゃんが事故に遭った時だ』