日付が変わり、朝が来る。
前日から続く雨は勢いを弱めつつあるものの、相変わらず大地を濡らしていた。
しとしとと降り続ける雨模様の中、いつも通りに働く私は、やがて休憩の時間を迎えると、昼食も食べずに自室に駆け込みスマホを耳に当てた。
数回、コール音が繰り返されると、『おう』という低く渋い声が聞こえる。
『久しぶりだな、嬢ちゃん』
「お久しぶりです! お元気でしたか、阿藤さん」
阿藤さんは、退魔のエキスパートたちが所属する極秘機関【司天寮】で働くダンディーな陰陽師だ。
管轄は伊勢市内で、現在は陰陽師たちをまとめる陰陽師長という役職に就き、私が事故に遭った際に担当となって以来、ずっとお世話になっている。
実のところ、天のいわ屋に住みながら現世で難なく教育機関に通うことができていたのは、阿藤さんが色々と手配してくれたおかげだったりもする。
チャームポイントは顎髭だと、昔本人からの自己紹介でアピールされたのが何故か忘れられない。
『ぼちぼちな。で、どうした? 嬢ちゃんから電話なんて珍しいな。もしかしてうちのスカウト受ける気になったのか?』
「ごめんなさい。陰陽師より宿の仲居の方がいいので」
『ハハッ、そりゃ残念だ。嬢ちゃんの視る力はぜひ欲しいんだがな。じゃあ何かあったのか』
「実は……」
期待に沿えず申し訳ないと思いつつ、阿藤さんに自分の置かれた状況を説明する。
阿藤さんとはあまり会っていないので、カンちゃんたちに話すよりも少し詳しく。