「いつきを救うことは俺の役目だ。前は、非力な人でただ約束を残すことしかできなかった。だが今生は、神として生まれることができた。前よりもずっと、大切な人を守る力を得られたと思っている」

 大切な人。
 それが私のことを指しているのであれば、とても嬉しい。
 けれど、私も大切だからこそ、ミヅハに無茶なことはしてほしくないのだ。

「やめて。役目だからってそこまでしなくていい!」
「悪いが、これだけは譲れない。今度こそ、あいつから解放してみせる」

 決意の強さを宿す瞳が、制止する私を射抜く。
 しかし、引けないのは私も同じだ。
 ミヅハに無茶はさせまいと、座卓に手をつき身を乗り出したのだが、取り合う気はないのだろう。
 ミヅハは立ち上がると「そろそろ部屋に戻る」と淡々と告げ、背を向けた。

「おやすみ」
「あっ、ミヅハ!」

 無情にも閉ざされた扉を暫く見つめ、私は長い溜め息を吐いて座卓に突っ伏す。
 ミヅハの命を使うなんて、そんな危険なことはさせたくない。
 それならば、万が一の時がこないうちに呪詛を祓えばいい。

「急いで、見つけないと」

 シンと静まり返る室内に、零した声が溶けて消える。
 気付けば、さっきまで忘れていた雨音が耳に戻ってきていて、私は焦りを落ち着かせるように瞼を下ろした。