戸惑う私を他所に、ミヅハは静かに目を伏せる。

「……千年前、俺の幼馴染も大丈夫だと笑っていた。自分を気にかける友がいて、ほんの少しでも幸せな時間があるなら、それだけで満足だと。だが、俺は彼女の隠した弱さに気付けず、最悪の結果を迎えた」

 ミヅハが話すのは、千年前に生きていた私たちの物語だ。
 同じ道を辿るなと伝えたいのがわかる。

「寿命が尽き掛け、呪詛に侵されているんだ。大丈夫なわけがない。辛いなら、そう言ってくれていい。泣きたいなら好きなだけ泣いてほしい。でなければ、いつか壊れてしまう。俺はもう、死に別れるのはごめんだ」
「ミヅハ……」

 ミヅハから向けられる優しさと、言葉に乗せられた後悔に胸が詰まる。
 何と返せばいいのかわからず、けれど、私の中にある苦しみを吐露し、甘えていいのだと促してくれたミヅハに「ありがとう」と、泣きそうになりながら感謝した。
 潤む瞳に映るミヅハは、相変わらず私を真っ直ぐに見つめていて、再び唇が動いたかと思えば……。

「だから、万が一の時は、俺の命を使う」

 とんでもないことを口にした。

「なに、言ってるの」
「呪詛を祓う手立てがないなら、瀬織津姫がしたように俺の命を砕き、いつきに与える」

 母様がしたように、ミヅハの命を砕いて私に与える?
 呪詛が残った状態でそんなことをしたら、母様と同様、弱ってしまうのではないか。
 まして、母様でも手こずった呪詛だ。
 五十鈴川の水神であるミヅハも、穢れを祓い清める力があると数年前に本人から聞いてはいる。
 しかし、まだ神様として年若いミヅハは、その力を完璧に使いこなせてはいないとも聞いた。
 だとすれば危険すぎる。