「俺は……幼い頃からずっと、いつきが気丈に振る舞う姿を見てきた。人には視えないものが視えることで人の子らにいじめられ、投げつけられた泥にまみれて帰ってきても、弱音を吐かずに、こんなの大丈夫だと明るい表情を見せていたのもよく覚えている」

 ああ、懐かしい話だ。
 確かにそんなこともあった。

 小学校のガキ大将に目を付けられて、まだ誤魔化すのもうまくできなかった私はひたすら黙ってやり過ごした。
 それが気に食わなかったようで、私は泥団子を数個、ガキ大将とそのお仲間たちに投げつけられたのだ。
 幸い怪我もなく帰宅したのだが、私の姿を見た天のいわ屋の皆は大層心配し、ミヅハは怒って『今からやった奴を川に沈めてくる』と物騒なことを口走っていたっけ。

 正直に言えば、いじめられるのは悲しかったし、嘘つき呼ばわりされるのは悔しかった。
 でも、私には心の拠り所である天のいわ屋の皆がいるから、だから大丈夫だと思えていたのだ。

 今もそれは変わらない。
 窮地にあって迷いなく手を差し伸べてくれる皆がいるから、膝をついたとしても立ち上がり、踏ん張れる。
 ただ、さっきも感じていたように、死への恐怖や不安は確かに私の中に存在している。
 負けないようにと必死に気持ちを奮い立たせるのは……言われてみれば強がりに似ているかもしれない。

「そ、うだね。だけど、ウジウジ悩むよりは、前向きに考えた方がいいでしょう?」
「いや、ウジウジ悩め」
「えぇぇ~……」

 まさか命令口調で言われるとは予想外だ。