夕方から降り始めた雨はいよいよ雨脚を強め、窓を打ち濡らしている。

「伊勢、呪具、伝承だと……うーん……三種の神器かぁ。さすがに神聖な宝物が呪術に使われてたら、天照様たちも気付くよね」

 宿の仕事も終わり、自室にてスマホを手に検索ワードを変えつつ、昔から現存する呪具を調べていた時だ。
 雨の降る音に混ざって扉をノックする音が響き、次いでミヅハの「俺だ」という声が聞こえた。

「おかえりなさい!」

 高天原から帰って来た彼を迎え入れると、ミヅハは柔らかく目を細め「ただいま」と返す。
 そんな一連のやり取りが、何だかすでに夫婦になったみたいでこそばゆい。

「それで、どうだった?」

 小さな座卓を挟んで向かい合うミヅハに問うも、彼はゆるゆると首を横に振った。

「収穫はほぼない。穢れを祓うアイテムや薬はいくつか置いてあった。が、少彦名殿の見立てでは、いつきの命の灯が僅かとなっている今、使えばどれも下手に刺激するだけで、逆に命を脅かしかねないとのことだ」

 私の体に負担なく祓える方法は見つからず、それでも諦めまいと母様と天照様はもう少し粘ってみるとのことで、ふたりが戻るのは明日になることを伝えられた。
 また、豊受比売様が疑問を持ったように、天照様と母様も、人ひとりの呪いがそこまで強くあり続けられることを不思議に感じていたとのことで、呪具、もしくはあやかしと化している可能性もあるのではという話になったらしい。
 朝霧さんが強い恨みから絡新婦になったように、術者も何らかのあやかしへと変貌を遂げ、今日まで生きながらえているのではと。