「にしても呪詛を植え付けてたとは、いい加減腹立つぜ。なぁ、大角」
「ああ。殺めるだけじゃ飽き足らず……卑劣だな」
怒りを露わにするカンちゃんと大角さん。
その様子を簾を挟んで窺っていたであろう豊受比売様が「あの……」と声を発した。
「いくら深い恨みがあっても、人が放つ呪詛が千年も続くもの……なんでしょうか?」
豊受比売様曰く、神やあやかしならばその命ある限り呪い続けことは可能だが、寿命の短い人であれば、死すれば呪いも薄まってやがて力も尽きるはず。
千年続くばかりか、母様の力でも祓えないのは異常なのではということだ。
顎に手を添えて俯き、豊受比売様の話を静かに聞いていた夕星さんが、ふと顔を上げた。
「もしかしたらだけど、何か呪具を使用していて、それが今も現存するんじゃないだろうか?」
「おおっ、さすが犬! 賢い!」
「僕は狐だ河童!」
カンちゃんと夕星さんがいつもの如くじゃれ合うのを横目に、朝霧さんが滑らかな頬に細い指を添える。
「とは言っても、呪具を使った確証もないのよね。あやかしの知り合いに聞いたりして、少し調べてみましょうか」
「そうだな。僕も協力しよう」
「わ、私もネットでそれらしい情報がないか探してみます」
朝霧さんだけでなく夕星さんと豊受比売様まで力になると言ってくれ、私は感謝に胸を震わせた。
「よっし。それっぽいのがなかったか、オレも思い出してみるよ」
「俺も記憶を辿ってみよう」
カンちゃんと大角さんも続き、私は椅子から降りると皆に向かって深く頭を下げる。
「ありがとうございます!」
優しくて心強い味方の存在に、頭が上がらない思いでいる私の耳に、カンちゃんが感嘆の息を吐くのが聞こえた。
「にしても、そうか~。これがうまく片付いたら、姫さんと若旦那は晴れて結婚か」
「うん、おめでたいね」
「はぁ~、相手が若旦那なら仕方ないわね。許すわ。なんせほら、運命だしね?」
何やらお祝いムードになり始めたあげく、朝霧さんのからかうような口ぶりに、私はすごすごと席に戻る。
寿命のことや呪詛のことはいい。
でも、婚姻に関してはギリギリまで黙っておくべきだったかもしれない。
それと、幼い頃のミヅハには悪気なんて欠片もなかっただろうことは承知なのだが、なぜ運命だなんて話してしまったのか。
いや、正直に言えば嬉しいし想像すると可愛いのだけれど、恥ずかしくて居たたまれない私は、顔を赤らめつつ急いでお昼ご飯を頬張った。