──昔、神やあやかしと心を通わせることのできる人の娘がいた。
それ故に娘は人々から気味悪がられていたのだが、いつしか人とあやかしたちの間に生じる問題を解決するようになり、少しずつ双方の信頼を得た娘。
その活躍は村々に広がり、やがて娘の類まれなる力の噂を聞きつけた当時の天皇に見初められ、伊勢斎王となった。
しかし……と、語る夕星さんの言葉が途絶える。
「しかし、なんですか?」
「……いや。ともかく、面識はないが、いつきさんと若旦那が前世で知り合いだったこと、君が有名な斎王の生まれ変わりであることは、僕と朝霧は知っている。なんせ若旦那が幼い頃に教えてくれたからね」
「運命の子に再会できたんだってね。フフッ、あの頃の若旦那は素直で可愛かったわよねぇ」
朝霧さんは微笑ましそうに笑ってから「実はこの宿が、その伊勢斎王を心配してついてきた干汰と大角の為に天照様が設立なさった話も聞いたかしら?」と色っぽく小首を傾げた。
「そうなの!?」
またしても驚く私に、カンちゃんと大角さんが揃って相槌を打った。
「最初はさ、本当に小さい宿だったんだ。民宿みたいな感じで、その頃はまだ瀬織津姫さんも女将じゃなく、ただ天照様に言われて手伝ってるだけだった」
「ああ。俺たちも、恩返しに手伝いながら世話になっていた。懐かしいな」
小さな宿が、今では神々まで泊まるようになり、従業員も増えて立派な宿へと成長したのだ。
それにしても、まさか天のいわ屋の設立が、前世の私と関わっていたとは予想外だった。
どうにかついていってはいるけれど、昨日から驚くことが多すぎる。