さっそくいただこうと夕星さんの隣に座った直後、簾のすぐ向こうから「い、今の話、もしかして東京駅のことでしょうか」と豊受比売様が遠慮がちな声で確かめた。
 彼女の言葉にいち早く反応したのはカンちゃんだ。

「豊受比売さん、もしかして行ったことあるんすか?」
「い、いえ、前にネットでそんな記事を見て……」

 豊受比売様の答えに、皆は一様に「なるほど」と納得する。
 ネットサーフィンが趣味だからこそ、知識が豊富なのだと。
 東京駅はダンジョン並みの広さで迷いやすいとの話を聞きながら、甘辛のタレが漬け込まれた松坂牛を味わう。
 すると、ゆっくりと茶を喉に流し込んだ夕星さんの身体が、少しだけ私へと向けられた。

「東京の話はさておき、大事な用で高天原に行くというのは、もしかしていつきさんに関係しているんじゃないのかい?」
「えっ……」

 驚く私の表情を見た夕星さんは、フフッと眉を上げて笑う。

「夕星さん、どうして」

 私のことだとわかったのか。
 その疑問は続けなくとも伝わったようで、夕星さんの口が再び動く。

「僕の妖力で……と言いたいところだけど、申し訳ない。耳がいいもので、通りすがりにうっかり聞いてしまったんだ」

 ピンと立てられた狐の耳。
 しかしそれは見る見るうちに倒れ、憂いを帯びた夕星さんの瞳が私を捉える。

「君の寿命がもうすぐ尽きることと、呪詛にも侵されている、と」

 紡がれた言葉の不穏さに、休憩室にいる皆の動きが止まった。