仕事の為、支度をはじめていた私の部屋に母様とミヅハが訪れた。
 呪詛を祓う手立てはないか、高天原に行って探してくると。
 少彦名様も高天原に御用があり同行するとのことで、もしもの為にと仁丹を置いていってくれた。
 ちなみに、須佐之男様は神大市比売様のところへ行くと言っていたようだけれど、大丈夫だろうか……などと心配しているうちに、みんなの話は進む。

「何でも大事な用事があるらしいね」

 夕星さんが「ごちそうさま」と箸を置くと、同じく食べ終えたカンちゃんがテーブルに頬杖をついた。

「いいなぁ、オレもたまには遠出したいな。東京とか興味あるんだよな。流行りのものいっぱいありそうだし」

 観光だけでなく買い物も楽しみたいと語るカンちゃんに、大角さんが「東京……」と思案顔で呟く。

「あそこには巨大なダンジョンがあると聞いたことがある」
「ダンジョン?」

 何やらファンタジーの匂いが漂う響きに思わず首を傾げる私に、大角さんはひとつ頷いた。

「目的の出口になかなか辿りつけないという噂だ」

 そんな迷路みたいなものが東京にはあるのかと、テレビや雑誌等でしか見たことのない都会というスケールに慄いていると、厨房とを隔てている簾が少しだけ持ち上がる。
 すすすとこちら側に押し出されたのは、松坂牛を使った焼肉定食だ。

「い、いつきさん、どうぞ……」
「ありがとうございます!」

 今日も豊受比売様の作るまかない料理は美味しそうで、思わず涎……ではなく、笑みが零れる。