「この呪詛は、前世で私の幼馴染であるミヅハを近づけたくないってことかな」
「うっとおしいんだろう。俺の存在が忌々しいと言われた覚えがあるからな」

 なんと恐ろしい。
 存在が忌々しいなんて、相当うっとおしく思っていたのかもしれない。
 執着して殺し、さらに呪うような人だ。
 どこか陰湿で、けれど気性の激しい性格だというのも垣間見れる。

「いい加減、これ以上は体に障る。知りたいことがあれば呪詛が消えてから全部話す。だから、今は我慢してくれ」
「……わかった」

 風が吹いて、木の葉を揺らす。
 私は息を吸い込むと、ミヅハに続いて歩き出した。

 少し、胸の内がスッキリしている。
 寿命のことや呪詛についてはショックだけれど、今まで腑に落ちなかったものが明らかになったのだ。
 もちろん、先代水神様の願いや、呪詛を植え付けた相手のこと……は、あまり知りたくない気もするけど、とにかくまだわからないことはある。
 でも、今はこれで十分だ。
 ミヅハの言う通り、まずは呪詛を祓ってから。
 まだ絡まっている糸は、成すべきこと成してから、ひとつずつ解いていけばいい。

 笑みをひとつ浮かべる。
 心からとはいえなくとも、ほんの一ミリでも前向きでいるために。

「ミヅハ、今日は寝不足もあって疲れたでしょう? 話を聞いた報告は私から母様たちにしておくから、このまま部屋に戻っ──」
「俺のプリンを置いてはいけない」

 食い気味に、加えて真面目な顔でプリンの話をするものだから、私は吹き出してしまう。
 今度は自然と笑えて、些細なことだけれど、やっぱり私はミヅハのことが好きなのだと素直に思えた。

「そうよね、大事よね。プリン」
「プリンを楽しみに午後の仕事を頑張ったんだ」
「うん、お疲れ様」

 クスクスと笑うと、ミヅハの表情も少し柔らかいものに変わる。
 美しくも男性らしい節くれだった手が私の頭へと伸ばされ、けれど触れる前に引っ込められると、撫でる代わりに彼は優しく微笑んだ。

「報告は俺がしておく。いつきも早く休め」
「うん。ありがとう」

 おやすみと言葉を交し合い、別れる。
 そうして自室に戻った私は、眠る直前、意識を手放すまで、呪詛を祓うためにできることが何かを考え続けた。