そう、か。
私にもようやくわかった。
母様が急にミヅハとの婚姻を言い渡したのは、寿命を延ばすための手段だったのだ。
具合が悪くなるタイミングが同じなのも、魂が繋がっているから。
「あの時に力を使い過ぎて、今じゃたいして祓う力もない。だから、あたしじゃ今のあんたを助けてやれない。こうして少彦名殿に頼るしかなくて……ごめんね、いつき」
「そんな……そんな、いいの。精一杯、私を助けてくれたんだもの」
自らの魂を砕き、私に与えてくれた。
今まで何も起きなかったのは、母様が呪詛の力を鎮めてくれたからだった。
『今日から、ここがいつきの家だよ』
力強くも優しさに溢れた温かな手を繋いで。
『ほら、そんなしょぼくれた顔しなさんな。母様がとっておきの歌を歌ってやるから』
前を向くことの大切さを伝え、導いて。
『いつき、今日の弁当は母様が頑張って作ったから楽しみにしておいで!』
亡くなった両親に勝るとも劣らない無償の愛を注いで育ててくれた。
謝る必要なんてどこにもない。
私の中には前にも増して感謝の気持ちしかないのだ。
「ありがとう、母様。大切な命をわけてくれて、ありがとう」
生きていなければ見られない景色がたくさんあった。
悩むことも、喜ぶことも、笑うことも、泣くことも、恋をすることも、ここまで生きてこられたから感じて、知ることができた。
想いが溢れて鼻の奥がツンとする。
じわりと瞳が潤んで、けれどそれは零れ落ちる前に母様の伸ばした手によって拭われた。
「あたしはね、いつきが幸せになってくれれば、それだけでいいんだよ。そしてそれは、ミツの願いでもある」