『お願いだ。やっと会えたんだ……いつきを助けてあげられる方法があれば教えてよ!』
あの日、五十鈴川の川岸で血を流して横たわる私を見つけたミヅハ。
せがまれた母様には、私の命の灯火がもう消えかかっているのがわかったらしい。
『斎王の生まれ変わりの少女、か……』
『いつき……いつき……今度こそ、助けてやるから』
『そうだね。ここでいつきを助けなきゃ、ミツがハッピーエンドを願ってあんたに二代目を任せた意味もなくなる』
助けたいとせがまれ、親友の願いを繋げる覚悟を決めた母様は、私を抱きかかえると須佐之男様を頼る為、根の堅洲国へ急ぎ向かった。
『この子を助けてやりたい』
血にまみれた私を見せると、須佐之男様は『やはりまだ追われているか』と零して笑ったそうだ。
『瀬織津もかの者に倣うと。だが、もう出会っているのだ。人の生の分であれば欠片のみで足りよう』
『わかった。やってくれ』
一刻も早く。
母様がそう続けると、須佐之男様は右手を優雅な手つきで掲げた。
すると光の粒子が集まり、かつて須佐之男様がヤマタノオロチを倒した神剣、天羽々斬が現れた。
須佐之男様は天羽々斬の切っ先を母様に向けると、魂を砕き、その欠片を私の心臓へと移したらしいのだが。
『う……ぅぅ……』
苦しみだした私の体から黒いモヤが溢れ、覆ったのだという。
母様と須佐之男様は、それが呪詛であるとすぐにわかったそうだ。
『千年経ってもまだ欲するか。人の欲深きことよ』
『神にも欲深いもんはいますよ』
『確かに、言われてみれば俺もそうだからな。さて、瀬織津よ。これをどうする』
『はん、あたしを誰だと思ってるんだい。祓ってみせようじゃないか』
罪や穢れの祓いを司る母様は、私の内に巣食う呪詛を祓おうとした。
けれど、その怨嗟は底が見えぬほどに深く、暗く。
完全に祓うことは叶わず、瀬織津姫の名においてようやく穢れを鎮めた時には、本来であれば八十、九十歳の天寿を全うできるはずの魂の欠片は呪いで擦り減り、二十歳までが限界となっていた──。