「ミヅハもいつきちゃんもいいかしら?」

 いいか悪いかと聞かれたら、そんなの答えはひとつだ。
 だって私は気付いた。
 気付かされたのだ。
 さくちゃんと話していて、自分の気持ちが誰に向かっているのかを。

 他の神様と婚姻を結ぶなんて……。

「まっぴらごめんだ」
「まっぴらごめんです!」

 ミヅハと私の声が偶然にもハモって、この場にいる全員の目が丸くなる。
 同じタイミングでミヅハと見つめ合い、瞬きを繰り返していると天照様がクスクスと笑った。

「あらぁ、仲がいいこと」

 からかうような口ぶりに私の頬が思わず染まる。
 しかし、ここで黙ってはいられない。
 他の神様との結婚話を回避しなければならないのだ。

「婚姻はあとにして、まずは呪詛をどうにかする方法を探させてください」

 呪詛を祓ってからミヅハと結婚すればいいのだ。
 どうやって祓うかはわからないけれど、きっと手段はあるはずだから。
 懇願する私に、母様が厳しい顔で私を真っ直ぐに見た時──。

「それでは遅いのだ」

 凛として低い声が室内に通った。

 ミヅハでも、少彦名様の声ではない男性の声がした方に皆の視線が向く。
 いつから部屋に入っていたのか。

 腰まで伸びた艶のある髪は夜の帳が降りたような紺に染まり、端整な顔の瞼には紅が差されているこの方は。

「なぁに、アンタ盗み聞きしてたの? 須佐之男」

 根の堅洲国を支配している天照様の弟、須佐之男様。
 おおいち堂の店主、神大市比売様の旦那様、一夫多妻制を採用しているあの須佐之男様だ。