──十四年前の今日、当時まだ五歳だった私は交通事故に遭った。
 両親に連れられて、買い物に行く途中だったと思う。
 前日から雨が降り続く中、父がハンドルを握る車が、山沿いの比較的ゆるやかなカーブに差し掛かった時だ。
 反対車線を走行する大型トラックが黒いモヤに覆われているのに気付いた私が、恐怖に目を見張った直後のこと。
 トラックが不自然なまでにセンターラインを越え、私たち家族の乗る車に突っ込んできた。
 パニックを起こし叫ぶ母の声が聞こえる中、父は咄嗟にハンドルを切ったが間に合わず、衝突。
 車は崖へと強く押し出され、川に転落した。

 ここからは、自身の朧げな記憶と、天のいわ屋の女将を勤める瀬織津姫から聞いた話になるが、両親は即死、私の意識はかろうじてあったものの、血を流しぐったりとした状態で川岸に横たわっていたらしい。

 最初に私を見つけてくれたのはミヅハだった。

 物心ついた時にはすでに人には視えないものが視えていた私は、どこか浮世離れした美しさを持つミヅハが、神やあやかしの類だと知りつつ五十鈴川の川縁で何度か会って遊んでいたのだ。
 その際、瀬織津姫が共にいたこともあり、彼女もまた人ではないことは感覚でわかっていた。

 優しい友(じん)であるミヅハと、大らかに見守ってくれていた罪や穢れの祓いを司る瀬織津姫。
 二柱の神と交流があったことが、私にとって幸運だった。
 じきに命の灯が潰えようとしている私を見つけたミヅハが、悲痛な声で『助けてあげて』と瀬織津姫に訴えてくれたのだ。

 その時の会話は、少し曖昧ではあるものの不思議と今でも記憶に残っている。