落ち着いた私の様子にミヅハが胸を撫で下ろす。

「大丈夫か?」
「ん……平気」

 母様も苦しさから解放されたのか、ふぅ、と息を短く吐いた。
 少彦名様は私の額に手を当て、探るように目を閉じている。
 そうして、そのままの体勢でゆっくりと口を開いた。

「呪詛は……永きに渡りいつきの姫の魂に巣食っていたようだね」

 少彦名様が説明しながら手を離したので、のたりと起き上がろうとすると、母様がミヅハの代わりに私を支えて起こしてくれる。

「まだ横になっててもいいんだよ」
「大丈夫。母様こそ平気? ごめんね、私のせいなんでしょう?」
「違う、あんたは何も悪くない。謝ることなんてひとつもないんだ」
「ああ。悪いのは……呪詛を植え付けたやつだ」

 ミヅハの声色には怒気が滲み、瞳も幾分か据わっている。
 天照様も「そうよぉ! いつきちゃんは一寸も悪くない!」と首を大きく振った。
 それにしても、いつどこで呪詛をもらってしまったのか。

「あの、少彦名様。永きって……いつからですか?」
「いつきの姫が生まれる前からだよ」

 生まれる前、ということは、もしかして前世で私は何かやらかして恨まれ、呪われたのだろうか。

「わ、私、前世は極悪人だったのかな……?」
「いや、極悪であれば現世に転生は叶わない」

 ミヅハが続けて言うには、真の悪行を働いた者は死者の住む常世の国の最下層に囚われ続けるらしい。
 そんな話をしていると、少彦名様が「申し訳ないけど」と声を張った。

「呪詛があまりにも深く根を張っていて僕には祓えない。無理に剥がそうとすれば、いつきの姫の命が危ういだろうからね」
「そんな……」

 予想していなかった重い状況に、私は思わず落胆の声を漏らした。