母様はミヅハの横に屈むと覗き込み「大丈夫かい」と声をかける。
「あ、ああ……」
小さく頷くミヅハの様子をじっくりと観察していた少彦名様の視線が私へと移された。
センター分けにされた前髪の間にある茶色い双眸が細められる。
「これは誰にでも反応を?」
「今のところミヅハにだけです」
「なるほど。少し触るよ。座ってくれるかな」
「はい」
言われた通りに畳の上に正座すると、手を出すように指示を受け、私は少彦名様へと手のひらを上にして差し出した。
少彦名様の小さな手が私の中指に触れる。
天照様や母様と同様に、少彦名様にも何の反応も見られない。
少彦名様は瞼を閉じると集中を始めた。
私の体内に巡る気を診ているのだ。
心なしか胸の内がざわつくような気がして、なんだか落ち着かない。
私の中にある何かが拒否をしているような、そんな感覚に息を吐いた時だ。
「これは呪詛だね」
そう、少彦名様が断言した瞬間、ミヅハの眉間に皺が寄る。
険しい表情になったのはミヅハだけではなく、母様と天照様もまた同様だ。
そして、私もその言葉の恐ろしさに眉を下げてしまう。
呪詛とは、恨みや妬みなどの負の念を対象者に放ち呪うことだ。
それが、私の体を蝕んで、ミヅハの接触を阻んでいる。
「どこでもらったのかな。外で異変を感じた覚えはある?」
少彦名様に問われ、私は頭を細かく振った。
「ま、まったく。邪気を感じたのは自室にいる時でした」
「ここのか?」
「はい。倒れて目覚めたのは夜中だったんですけど、寒気がして、その後に」
突然の邪気に、ミヅハも気付いて目を覚ましたのだ。
異変を感じたのはその時くらいで、他は全くと言っていいほど何もなかった。